奈良県支部
【第2日目:8月12日】

 ☆ 朝食〜本場マサラ・ドーサに激しく舌づつみ

午前9時、前日の疲れを幾分癒したメンバーがホテルロビーに集合。
本日からいよいよ、チェンナイでのスケジュールをこなしていきます。
みなそれぞれに思い思いの服装をしている中、ひときわ目を引いたのがエミリンさんの見事なパンジャビ姿。コバルトブルーの、まるで天女の羽衣を思わせるような優雅なパンジャビです。エミリンさんが、現地行動の初日から敢えてドレスアップした意味が、後ほど判明します。

朝食は、アルナチャラホテル内にあるレストラン。
メンバーのほとんど全員がマサラドーサを注文。
運ばれてきたマサラドーサは、威厳に満ちた本場ならではの焼き上がりを見せています。「マサラドーサをおひとつドーサ」という陳腐なダシャレがいやでも脳裏をよぎるおじゃまんでした。
右手で直にちぎり取ったドーサの一切れを3種類のスパイスと共に口に運べば、香ばしさとスパイシーさここに極まるという独特の風味が広がります。あ〜、幸せじゃ〜♪思わず究極の満足感が体内に充満するのでございます。この一口だけで、チェンナイに来た甲斐があったとうなづけるおいしさ。もう、何も申すことはありません。ただ、ひたすらにうなづきながら次々にドーサを口に運ぶメンバーたち。

ふと、横を見ると、現地のご婦人客が注文したスペシャルドーサなるものが運ばれてきました。円錐形の巨大なピラミッドを思わせるスペシャルドーサ...どうやって食すのか見守っていると、そのご婦人は円錐ピラミッドをパタンと横に倒し、ペンペンと叩いてペッチャンコにしてから食べ始めました。何のことはない、食べる瞬間には普通のマサラドーサとほぼ同じ状態になるのでした。

 ☆ チェンナイ・オートリクシャー考

ホテル前からオートリクシャー4台に分乗したメンバーは、午前中エミリンさんの知り合いを訪ねるということで出発しました。

オートリクシャーの運転手さんは、例外なく強烈なレース感覚の持ち主で無謀とも言える運転をします。客はリクシャーの手すりに必死にしがみつき、振り落とされないように歯を食いしばります。
チェンナイの交通事情は日本では考えられないハードさです。道路にはめったに信号機がなく、バス、タクシー、乗用車、トラック、バイク、自転車、歩行者が渾然と流れているのです。日本の交通状況を川の流れに例えれば、チェンナイのそれは濁流、いや土石流と呼んだ方が的を得ているかも知れません。
そんな、濁流・土石流の中をオートリクシャーはまるでミズスマシかゲンゴロウのように割り込み、幅寄せ、反対車線逆行という超難度のテクニックを駆使してスイスイと泳ぎ回るのです。
見ているとリクシャー運転手にはひとつの信念か哲学のようなものがあるのに気づきました。

「客をいかに早く目的地に運ぶか」

という命題を非常に律儀に守ろうとしているのです。すべてのリクシャー運転手にはこの哲学がこよなく行き届いているようです。
ラジニカーントのバーシャで大活躍したアートカランが運転する本場のオートリクシャーに乗る感動とリスクの高いスリル感は、もはやUSJのどのようなアトラクションライドも遙かにかすんでしまう驚異の感覚に充ち満ちているのです。素晴らしきアートカランに幸あれと祈らずにはおれませんでした。

 ☆ エミリンさんの秘密

4台のオートリクシャーは、コーダンバッカム駅とは違う大きな近代的な駅に到着し、ここから鉄道でエミリンさんの知り合いが待つという駅に向かいます。

駅の構内、プラットホーム、どこにいてもエミリンさんの見事なパンジャビ姿は注目の的です。ひときわ色白で端正な面立ちのエミリンさん。
その東洋的な妖しい雰囲気は、インド人にとって高嶺の花を超えた女神的存在にも感じられるのでしょうか。男たちの熱い羨望のまなざしが、エミリンさんに吸い付くように注がれているのを肌で感じました。

ドアなし貨車風列車にゆられていると、外の風が車内を存分に駆けめぐって行きます。車内では、物売りが出没、身動きも取れない超満員の中をくだものからピーナッツの量り売り、はては電池を売って歩く男など、賑やかさは尋常ではありません。

目的の駅に到着。列車を降りてプラットホームから線路上に飛び降り、線路を横断して駅の外に出ます。まるで、終戦直後の闇米買い出しのの連中が警察の一斉取り締まりを受けて、クモの子散らすように逃げまどう状態が眼前に繰り広げられています。

駅の外で、しばし連絡を待ちます。
5〜6分ほどすると、エミリンさんの友人が到着したとの連絡が入りました。駅の反対側にいるというので、またもや駅の構内に入り込み、こけつまろびつしながら線路を横切る闇米買い出し人を演じねばなりません。列車がいつ接近してくるやも知れず、おのずとこけつまろびつしてしまうのです。

駅の反対側にたどり着くと、そこにはミッション系シスターに連れられた6〜7歳の丸坊主の女の子が待っていました。エミリンさんは、その女の子のそばに近づくと、笑顔を満面にたたえてしゃがみ込み、やさしく語りかけました。女の子はいくぶん緊張気味で、初めて会うエミリンさんに笑顔を返そうとしますが、うまくいきません。

実は、エミリンさんは
この少女の里親的存在なのです。

昨年の暮れぐらいから、エミリンさんはインドの孤児に義捐金を送金していたのです。現在も月々1000ルピーの送金を続けておられます。
そのお金が、この少女の生活費、教育費、文具費として遣われ、少女の生活面、教育面に多大の貢献をしているとのことでした。

いやはや、エミリンさんがこんな形でインドに貢献しているとは、奈良支部長おじゃまんも今日の今日まで知りませんでした。誠にお見事です。

シスターが手配したワンボックスカーに全員乗り込もうとしましたが、アブれる人が出たため、オートリクシャーを1台拾ってやっと全員が孤児院に向かって出発したのでした。

チェンナイ市内の陸軍施設内の一角にそのシスターが勤めるミッション系孤児院があります。飾り気のない清潔な建物で、たくさんのシスターたちが孤児の面倒をみています。みな、底抜けに明るくて、笑い声の絶えない院内は、最高の環境を孤児に提供しているようです。

応接室に通されたメンバーは、しばし椅子に腰掛けてシスターと歓談しました。我々グループが日本のラジニカーントファンであることが明かされ、てつのすけさんが前回チェンナイ訪問した際にラジニカーントと奇跡的な出会いをした写真などが披露されると、シスターの興奮は最高潮に達します。他のシスターを呼び寄せたり、昼食の準備中のシスターにその写真を見せてきても良いかと了解を得てその写真を持って出て行きます。しばらくすると炊事場と思われる方角からキャーキャーいう他のシスターたちの嬌声聞こえてくるのでした。ラジニカーントの威力は、ミッション系シスターの間でも揺るぎないものでした。

恐れ多くも、全員が昼食をごちそうされるハメになりました。
来客用の食堂に通され、各人がテーブルにつくと、特製のインド料理が次々に運ばれてきます。決して豪華ではありませんが、素朴な中に厳かな気風を感じるもので、料理を口に運べば、ここに勤める清らかな心のシスターたちの清楚な気概が胸に染み込んでくるようでした。

食後、例のシスターから、この建物の裏手の山にあるハンディキャップを持った子供たちの施設も訪ねて欲しいとの要望で、一行は孤児院を後にし、裏山を登って行きました。

10分ほど登り切ると、当の施設がありました。
ハンディキャップを持った、たくさんの子供たちが出迎えてくれました。
ここでも、ラジニカーントの威力は素晴らしいもので、子供たちの誰もが

ラジニカーントのファンだったのです。

みずさわさんが、黄色いタオルを振り回しながら、バーシャのアートカランを歌い踊ると、もはや子供たちは熱狂に包まれ、ハンディキャップを忘れて一緒に踊る子供たちや手拍子足拍子で盛り上がる子供たちの大合唱になりました。
シーサンのポラドイロカメラもいかんなく威力を発揮します。
子供たちと一緒に撮った写真を、その場で現像から焼き付けまでこなしてしまうポラドイロカメラ。写真をもらった子供たちは目を輝かせて、まるで、宝物を手にしたように驚異の表情で見つめています。
   
でも、もっとも感動的だったのは、きえちゃんの旦那様(タカちゃん)のワンシーンだったでしょう。
2歳ぐらいの女の子です。足にハンディキャップを持っているようです。
タカちゃんが、怖い顔に満面の笑みを浮かべて両腕を差し伸べ、その子に手招きすると、何とその子がヨチヨチとタカちゃんに近づいて行くではありませんか。大きな澄み切った瞳でタカちゃんをしっかり見つめ、タカちゃんのもとまで来ると、

タカちゃんの膝の上に
チョコンと座ったのです。

これには、横で見ていたシスターもびっくり。
さらに、この子はシスターが言った言葉にすぐに反応し、今度は立ち上がるとタカちゃんの右のホッペにあどけないキスをしたのです。
さぁ、タカちゃん大喜び!大きな胸にその子をしっかり抱き上げると、スックと仁王立ち、体を左右に揺すってあやし続けます。顔には満面の笑みがこぼれています。
そうです。タカちゃんにとって、この瞬間はチェンナイに来て最高の思い出になったことでしょう。

あっという間に30分が経過、そろそろこの施設をおいとませねばなりません。30分という時間が長いのか短いのか、日本からはるばるやって来て、ラジニカーントというヒーローを介して現地の孤児たちと心を一つにした30分。それは、時間と空間を超越した神様からの贈り物だったに違いありません。

施設から去るメンバーたちを子供たちとシスターが大きく手を振り見送ってくれます。中には駆けだしてメンバーを追いかける子もいます。
ビデオ撮影していたおじゃまんの目にも、何か熱いものがこみ上げて来て、まるで「世界ウルルン滞在記」のワンシーンを撮影しているように感じたのでした。

エミリンさんの義捐金から始まったこの感動的な時間は、もちろん当初のスケジュール外の出来事でしたが、最高に価値ある思い出を残してくれました。これだから、旅行はやめられないのです。どんなハプニングがあるか、それは現地に足を運ばねば体験することができません。


つづく...


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